叙述トリック=読者へのトリック
さて、推理小説には様々なトリックが登場します。
その中の一つに叙述トリックがあります。
そして叙述トリックは小説だからこそ引き立つトリックといえます。
叙述トリックは、一般的なトリックと一線を画します。
それは、一般的なトリックは
小説の中の人物→小説の中の人物 に仕掛けるものであり、
叙述トリックは
小説の著者→読者 に仕掛けるものだからです。
読者へのトリック?具体的な例
まずはこんな一節があったとします。
ー朝、鏡を見ながら歯を磨く。探偵は突然の頭痛に、思わずこめかみを抑える。
「昨日の酒か」小さく呟く。
30を超えたあたりから、あれだけ強かった酒も翌日まで残るようになってしまった。
スマホを一瞥し、溜息をつく。誰からも連絡はない。
自室に戻り、来ることのない客を待ちながら、日課の腹筋を始めるー
今の文章では、男性か女性かは書いてないよね?
例に出した文章では、
探偵・酒・腹筋という単語を使用することで、読者に「探偵が男性である」と誘導しています。
また彼、彼女という言葉を使わないよう、三人称を「探偵」にしています。
このように著者から読者へ仕掛けるトリックを叙述トリックといいます。
叙述トリックの種類
叙述トリックの基本的なものだと
・時間軸を利用したもの
例:連続的に見せて、章ごとに過去と現在を行き来している
・名前を活用したもの
例:苗字で示されている人物が、親子で入れ替わっている
・視点の入れ替え
例:物語の語り手である「私」が場面転換の際に入れ替わっている。
なんかがあります。
勿論これは一例で他にも沢山のトリックがあります。
叙述トリックの難点
叙述トリックは、心躍るトリックなのですが、難点がいくつかあります。
・映像化が難しい
・「すごい叙述トリックの作品」と紹介することがすでにネタバレになってしまう。
そのため
・映像化されないから、ミステリを読まない一般層に普及しにくい
・人に紹介しにくい
という問題点があります。
なんと罪深い・・・
そのため、とても面白いがミステリを読まない層は全く経験することがありません。
「映像の中で叙述トリックを仕掛ける」ということも可能です。実際にそのような作品もあります。
しかし「想像力」という壁がある以上、小説に比べると、見劣りします。
(注:個人的意見)
あなたもミステリー小説を読んで、極上の叙述トリックに酔いしれてください。
<了>